無題
保護者 多田早紀
交流プラザのホールの壁と床が、鈍く響く。重低音が良く伸びる男性の声。その主は、あい色の服をまとう魔術師のような姿だ。名前はこうやまのりお先生。心を豊かにする言葉の魔法を使う先生は、まさに姿の通り魔術師だった。
作文を最後に書いたのは、中学生の頃だ。高校生になると小論文に名前を変え、社会人になった今は看護研究論文や看護記録になった。自由にのびのび、自分の思いのままに書いていた頃の小学生の私は、いつの間にか心の奥に封印され、形式にとらわれる文章ばかり書いていた。
今日、魔術師の手によって封印が解け、小学生の私が顔をひょっこり出した。私の隣の席には小学二年生の息子が座っている。帰ったら今日の作文教室のことを沢山一緒に話そう。作文に書いて、今日の二人の気持ちをいつでも読み返そう。思い出の詰まった小ビン。
私も魔法が使えるようになったみたいだ。

